メンズスーツの時間

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ヨーロッパのスーツの背景

ヨーロッパで現在のスーツの直系モデルが誕生したのは、フランス革命後から産業革命前頃で、ブルジョワの間で着られ始めたと考えられます。ハプスブルグ家の王朝が大手を振るっていたヨーロッパでも、イギリスは傍流と言うか、独自の文化を築いていましたから、服飾でもヨーロッパ大陸とは異質な特徴をもっていたと言えます。その特徴は新大陸時代から始まる、世界経済を攻め続けてきた事にあり、スーツの成立もそれと無縁ではありません。

簡単に言えば、世界貿易に関連する経済活動が活発なイギリスではブルジョワの台頭が他のヨーロッパ諸国より早かったと言うことで、スーツのスタイルもイギリスが直接の生みの親と言えるでしょう。ただし、文化は高き所から低き所へ伝わっていくもので、イギリス、フランス、ドイツの三大大国の端にあるイタリアは、今の日本から見れば、東南アジアの開発国と言った存在で、統一国家としての呈をなしていない弱小国、あるいは貧乏国でありました。そこでイタリアの労働者は、ヨーロッパの景気のいい国に出稼ぎに行き、当時の工業労働者として主要な部分を担っていたわけです。

当然技術を身につけたイタリア人はイタリアに戻り、身につけた技術で商売を始める事になりますが、イタリアは同時に織物や皮革の生産地であり、地場産業のめでたい融合となって、今の服飾や革製品の伝統が出来たわけです。とは言え近代史におけるイタリアは紛れも無く、ヨーロッパの文化の頂点にあり、アートの世界では、情報発信基地として、先端をいっていたのは今も昔も同じです。日本で言えば、江戸や大坂に経済を牛耳られた京都のような存在と言えるでしょう。

フランスは言わばアメリカのようなもので、フランス自体が芸術品を産出するのではなく、周辺の国々から文化や人材が流れ込む器のようなもので、マーケットして重要な存在でありましたが、その意味ではヨーロッパの流通の要と言えます。

ドイツはハプスプルグ家の直系的な国として、重厚長大な分野が得意で、鉄鉱石や石炭の産出量では、ヨーロッパ有数と言えるだけに、国内産業主体の経済を誇り、ヨーロッパ文化の硬派な分野を担っているといえるでしょう。

それぞれヨーロッパでも国によって特徴がありますが、スーツにおいても同様ですが、今のスーツの原型は、イギリスから始まり各国でカスタマイズされていったと言えます。しかし、その主流はイギリスとイタリアであり(元を正せばイギリスですが)、お国柄の違いがスーツの妙を生み出したと言えます。

ヨーロッパのスーツの伝統の違い

日本のスーツとヨーロッパのスーツとどこが違うかと言えば、オーダースーツの品質では、そんなに品質自体の違いはありません。日本のテイラーも技術は確かですし、日本人の体形を良く知っていて、日本人が着るには最適です。既製服となると格段の違いが出てきます。既製品なのになぜかとかと言えば、既製品に対する発想の違いと言うことになります。サイズや体形で、袖が長いとか股下が長いとか、いろいろ不具合はあっても、スーツの基本をオーダースーツと見ているか、スーツをあくまで既製品とみているかの違いです。

海外のブランドで既成品のスーツで成功しているところは、サイズを無視したところに、デザインの重点を置いているようにも見えます。既成のスーツがサイズに関してフィットするだけでは、所詮オーダースーツに及ぶべくもありません。そこには微妙な遊びや、許容範囲を設け、ピッタリフィットしなくても、それなりにシルエットを作ってしまう、高度な匠の業があるわけです。このような事は平面的なデーターだけでは出来ません。

コンピューターで行なおうとすれば、今の何倍ものデーターが必要になり、不可能に近いと言えます。面白いもので、既製服でも最初は多少窮屈でも、着ていくうちになんとなくシックリしていくモノがあります。デザインや生地、縫製の微妙なタッチが、既製服でもある程度の満足を与えてくれる事に驚かされますが、国内の製品でない事が残念です。

ヨーロッパのスーツから学ぶこと

ヨーロッパ人にとってスーツは、(おかしな言い方をすれば)一種の民族衣装で、英語が世界の共通語になったように、ビジネスなどあらゆる分野でフォーマルな標準服となっている訳です。スーツを着こなすためには、ヨーロッパの文化に精通している必要がありますが、それはたしなみの範囲と言えるもので、本格的にヨーロッパ文化を理解するのであれば、スーツなど着ている暇はありません。

日本人とヨーロッパ人日本人が逆立ちしてもヨーロッパ人になれない様に、どんなにがんばっても、ヨーロッパ人と同じようなスーツの着こなし方は出来ません。ただただ本物の良さを知り、肌を通してヨーロッパのテイストを感じるのみです。問題はそこからで、日本人である我々が、ヨーロッパ生まれのスーツをどう料理するかと言う事になります。所詮は服ですが、やっぱりスーツです。ブランドのイメージにどっぷり漬かった着こなしなどは、お仕着せの服と同じで、所詮借り物の着こなしです。

人前に出るための服として、スーツをどう着こなすかは、人から教わるものでなく、自分のスタイルを作るものです。とは言っても、だれも無から有を作れるはずも無く、そのためにオリジナルを知る事が重要になってきます。ヨーロッパのスーツの基本を知れば、なぜスーツなのかのかが分かるはずです。